医療事故かと思ったら・・・    

ご自身やご家族などが医療事故に遭われたとき、どのように行動していけばいいのでしょうか。自分にどのような選択肢があるか、どのような制度の救済対象になるのかを知ることは、患者が自立的に行動し、患者の権利を促進していくためにとても大切なことです。
このコーナーでは医療被害者の救済や医療トラブル解決のための制度を紹介します。



ADRについて 産科医療補償制度 医療事故調査制度  医薬品副作用被害救済制度
 
    
 
ADRについて   

 ADR(Alternative Dispute Resolution)とは裁判外の紛争解決のことをいいます。裁判外の解決とは裁判手続以外での解決の意味です。後述のADR法では、「訴訟手続によらずに民事上の紛争の解決をしようとする紛争当事者のため、公正な第三者が関与して、その解決を図る手続き」と定義されています。
 紛争を解決する手段としては裁判による解決があります。しかし、裁判は基本的に一方が勝ち他方が負けるものです。ですから、紛争当事者全員にとって良い解決が図られるわけではありません。また、たとえ勝っても、裁判には時間も費用も労力もかかります。勝ったときには疲弊しきっているという可能性もあります。
 
ADRという考え方は以前からありました。しかし、裁判外紛争解決手続の利用促進に関する法律(通称ADR法)が2004年12月1日に制定(2007年4月1日施行)されたことから、弊害もある裁判一辺倒の解決以外の紛争解決手段として大きな注目を集めるようになってきました。
 1994年WHO(世界保健機関)が採択した「ヨーロッパにおける患者の権利の促進に関する宣言」の6.5でも、患者が不服申立をできなければいけないと述べた上で裁判所での救済手続以外に不服申立等を受ける機構が作られるべきとされています。
 医療に関する苦情については、おおむね次のような裁判外紛争解決が考えられます。
 1 患者・家族の相談にのり、苦情解決を支援する組織
 2 医療・福祉施設自身が患者の苦情などに対応する部署などを設けて、現場での解決を
   図るシステム
 3 医療・福祉施設の対応に納得できない患者の苦情を受け付け、公正な第三者として調査
   点検し、勧告などを行う組織

 1 は、各都道府県に設置されている医療安全支援センターが代表的なものです。
 2 に関しては、特定機能病院と臨床研修指定病院に患者相談窓口の設置が義務づけられ、平成18年の医療法改正ですべての医療機関で患者相談窓口の設置に努めなければならないとされたことから、最近では患者相談窓口を設置する病院が多くなりました。また、医療事故においても東京女子医科大学で院内ADRによって病院と家族が和解に至ったケースもあります。
 3 にあたるものが、私たち患者の権利オンブズマンの活動です。患者の権利オンブズマン東京では、医療・福祉分野における苦情相談を受ける相談事業や、同行支援事業、調査点検事業を行っています。
詳しくは当会のホームページを参照下さい。


      
   
      
               産科医療補償制度
 
 産科医が安心して働くことができ、産科医の深刻な不足を解消するためには、分娩に係る無過失補償制度が必要との声が高まり、平成19年2月に厚生労働省の委託事業として日本医療機能評価機構の中に検討のための委員会が設置され、20年1月に産科医療補償制度の報告書がまとめられました。この内容に沿って運営組織は同機構が担当し、平成21年1月以降誕生した子どもから適用し、分娩機関からの保険料徴収は2月からとなります。

目的
   
    @分娩に係る事故により脳性麻痺となった児及び家族の経済的負担の補償。
    A事故原因の分析と事故予防の情報提供。
    Bこれらを通じて紛争防止、産科医療の質の向上を図る。
    

制度
   @民間の損害保険を活用。

   A原則として全ての分娩機関がこの制度に加入することが求められる。

補償の対象
    @通常の妊娠、分娩にもかかわらず脳性麻痺となった場合。原則として出生体重
    2000グラム以上、かつ在胎週数33週以上で、身体障害者等級1・2級相
    当の重症者。しかしこの基準を下回る場合でも、在胎週数28週以上の児に
    ついては個別審査を行う。

    A補償から除外される基準としては先天性要因(広範な脳奇形、染色体異常、遺
    伝
子異常など)と新生児期の要因(分娩後の感染症)。

補償水準
   @給付 総額は3000万円、その内訳は一時金は600万円、分割金が子どもが
    20歳になるまで毎年120万円(途中で死亡しても給付総額は変わらない)

   A分娩機関に損害賠償責任がある場合は本制度の補償金と損害賠償金との調整を
    行う。

手順
   @制度加入(妊産婦に説明・補償約款の確認)。
   A妊産婦登録、保険料は分娩機関が1分娩当たり3万円を支払う。   

   B補償申請、審査、補償金支払い、原因分析・再発防止。

  なお、各分娩機関が保険料相当分を分娩費用に上乗せすることが予想されるため、
 厚労省は医療保険で給付する出産育児一時金を3万円引き上げる方向で準備を進め、
 年間の給付対象は500〜800人を予定しているとのことです。

 この補償制度については日本医療機能評価機構のホームページからも見られます。
                                  

   
   
 
            医療事故調査制度

● 医療事故調査制度の概要          

 201510月より、医療事故の再発防止を目的とした、医療事故調査制度がスタートしました。

   医療事故が起きたときの調査の流れは次のとおりです。
 
  @ 「医療事故」が発生したとき、すべての医療機関の管理者が、「医療事故調査・支援センター」(以下「センター」)に報告をします。報告対象となる「医療事故」は、死亡事故に限り、医療機関に勤務する医療従事者が提供し た医療(管理の落ち度も含まれます)に起因し、または起因すると疑われ、医療機関の管理者が死亡の発生を予期 しなかったものです。《カラーは濃いピンク》

A 医療機関は、報告した医療事故につき、院内での調査を行います。調査にあたり、医学医術に関する学術団体などの「医療事故調査等支援団体」(支援団体)に必要な支援を求めます。

B 院内調査が終了したら、医療機関の管理者は、結果をセンターに報告し、遺族に説明します。

C センターは、医療機関の調査結果報告に関する整理・分析を行い、医療事故の再発の防止に関する普及啓発を行います。

D 医療機関の管理者または遺族は、センターに調査の依頼をすることができます。

E センターが必要な調査を行います。

F センターは調査が終了したとき、調査結果を医療機関の管理者と遺族に報告します。

● 制度の課題

 現状、この制度が、医療事故の原因究明・再発防止に適した制度として運用されていると評価するには、まだまだ課題があります。遺族にとって特に切実なものは、以下のような課題です。

@ 医療事故の報告をするかどうかは、医療機関の管理者の判断に委ねられています。制度発足前は、年間13002000件の報告があると試算されていましたが、1年目は388件、2年目は363件の報告しかありませんでした。医療機関が医療事故の報告をしていないと考えられます。実際、そのような相談も寄せられています。

A 報告がされなければ、院内の調査は行われず、遺族がセンターに調査依頼することもできません。

B 委員の人選、調査の進め方において、調査の公正性、透明性、中立性、専門性などが保証されていません。

C 医療機関は遺族に対して、院内調査結果の説明を、口頭または書面(報告書や説明用資料)で行い、遺族が希望する方法で説明するよう努めなければならないとされているものの、報告書のコピーを渡すことが義務づけられていません。

● 医療事故に遭った遺族がとれる対応

 以上の課題があり、以下の対応をとっても医療機関が対応してくれないおそれはありますが、医療事故に関する適切な説明を受け、同様の医療事故を起こさせないようにするため、是非次のような対応をとってください。皆さんの地道な行動が制度の改善につながります。

@ 上記の医療事故が発生したのでは?と考えたときは、医療機関に対し、センターへの報告と院内での調査を求めましょう。

A 医療機関が、@の対応をしない場合は、なぜ対応しないのか、具体的理由を尋ねましょう。医療機関は、遺族に医療事故に該当しないと判断する理由をわかりやすく説明しなければなりません。

 同時に、センターにも相談しましょう。医療機関に医療事故の報告などをしてほしいと考えていることを、センターに話して、センターから医療機関に伝えてもらいましょう。もっとも、このセンターから医療機関への伝達に、報告させる強制力はありません。

B 医療事故調査が始まることに決まった場合は、調査委員会に外部の適切な人を、適当な人数入れてもらうようお願いしましょう。適当な人数が決まっているわけではありませんが、外部の委員が自由な発言を妨げられるような状態は防がなければなりません。

C 自分が抱いている疑問点や体験した事実は、調査委員会に伝えましょう。書面にして提出しないと伝わらないことがあるので、文章にして提出しましょう。

D 調査結果が出たときは、調査報告書のコピーをもらいましょう。コピーをもらった上で、面談での説明も受けましょう。

E 医療機関の調査結果に納得がいかない場合は、センターに調査依頼をしましょう。費用は2万円です。
 Cで作った書面は、センターにも提出しましょう。    



                                    

   
   
 
 
     
  医薬品副作用被害救済制度


 他の人と同じような使い方で医薬品を使ったにもかかわらず、自分だけ副作用などの被害を
うけたとき、運が悪かったとあきらめなければならないと考えていませんか。

 医薬品を適正に使用したにもかかわらず、発生した副作用による健康被害者に対して迅速に
救済給付を行うことを目的に作られた公的制度として「医薬品副作用被害救済制度」があります。
 副作用で仕事ができない、入院の費用が払えないなど、被害者が直面する経済的負担に対応
する制度です。(医薬品医療機器総合機構法に基づいています)。

 *すべての医薬品が対象ではなく、1980年4月30日以前に使用したものや、厚生労働大臣が
  指定する抗悪性腫瘍剤、免疫抑制剤や、動物用医薬品、製造専用医薬品、体外診断用医薬
  品等は対象外になります。

 *適正に使用とは医療用、大衆薬にかかわらず、添付文書等に記載されている用法・用量、
  使用上の注意等に従って使用した、つまり普通の使い方をしたということです。

 *健康被害とは副作用によって入院を必要とする程度の疾病や、日常生活が著しく制限
  される程度の障害をさします。本来ならば入院が必要でしたが、家庭の事情等で通院治
  療をした場合も対象になることがあり、入院は絶対的な条件ではありません。

 副作用救済給付の種類は @医療費、A医療手当、B障害年金、C障害児養育年金、
 D遺族年金、E遺族一時金、F葬祭料があります。

 給付を受けられるかどうかは、いつ請求するかが関係するので、早めに請求することが大切
 です。請求の方法、必要な書類、対象となる医薬品、給付額等、詳しい内容は医薬品医療
 機器総合機構のホームページの健康被害救済制度をご覧ください




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